漁業体験(海しょくにん) 高橋直哉さん 体験提供者インタビューレポート

海しょくにん〜”漁業体験”から学ぶ海の魅力と素晴らしさ〜

 南三陸町の歌津・泊浜地区で漁業を営んでいる高橋直哉さん。生まれも育ちもこの地域で家業も海の仕事が主でしたが、東日本大震災の津波被害を受け、しばらくは海から離れていたこともありました。しかし、全国からのボランティアの支援によって片付けられていく町、漁業支援も始まり多くの人たちに励まされた言葉に「恩返しがしたい」「今度は自分たちが笑顔にしたい」と思うようになったと言います。

 津波によって忘れかけていた、大好きな海の豊かさと楽しさを伝えたいと思うようになり、2013年から生産販売と漁船を使った観光事業を「南三陸 金比羅丸」としてスタート。その後、海での体験の機会を広げたい、仲間も増やしたいと、町内に住む若き熱い男たちで「海しょくにん」を結成。副代表として活躍されています。

 今回は、そんな魅力ある取り組みと甘いルックスでもファンの多い高橋直哉さんから、「海しょくにん」の紹介と、彼らと体験ができるプログラムの魅力についてもご紹介いただきます。

 

―「海しょくにん」が結成された背景を教えてください

 「海しょくにん」は、結成当初は漁師だけのグループでした。2013年にスタートした「金比羅丸」としての事業が大体1年で軌道に乗ったんですけど、有難いことにお客様が増えると、自分1人と自分の船だけで受け入れられる人数が限られてくるのでどうしようかなと思ったんです。そこで、幼馴染で信頼している高橋芳喜さん(「海しょくにん」代表)に声をかけました。さらに、来てくれたお客様たちを迎え入れる海の仲間を増やそうということになり、漁師のメンバーに声をかけて「海しょくにん」を結成するに至りました。ちなみに「海しょくにん」の「しょくにん」が平仮名なのは、海の「食」と「職」の両方を体験してほしいという意味で、2つの意味を持ち合わせているからなんですよ。

―「金比羅丸」「海しょくにん」共に“体験”をしてもらおうと思ったきっかけは何でしたか

 震災での津波被害を受けて、1年間海から離れてアルバイトをしていましたが、1年経ってわかめの養殖は再開できるということになったので、その時だけ戻ってきました。そこで、漁業支援で来てくださったボランティアの皆さんにわかめのしゃぶしゃぶを振る舞ったんですね。振る舞ったって言っても、自分たちにとっては当たり前にあるわかめで、もっと言うとわかめしかなくて、それで喜んでもらえるのかなって思いました。でも、食べた皆さんが「美味しい!美味しい!」「こんなに美味しいわかめは初めて!」と本当に笑顔で喜んでくださったんです。他にも「海が本当にキレイ」「海産物も全部美味しい」と言ってくれました。そういったボランティアさんの様子を見ていたら、自分の中での“当たり前”が“誇り”になったんです。

 わかめのシーズンが終わったらまたアルバイトに戻ろうかなと思っていたのですが、やっぱり海で仕事をしたいと思い直しました。そして、わかめのシーズンが終わると置きっぱなしになる漁船に注目して「この漁船を使ってできることは何だろう」と考えた時、来てくださったボランティアさんたち含め、この町に来てくれた人たちを笑顔にできる仕事がしたいと思って、観光・体験の事業をしようと決意しました。

 さまざまな手続きや資格が必要だったので、2012年に時間をかけて準備をし、ようやく2013年に事業がスタートしました。そして、徐々に「海しょくにん」の仲間たちと一緒に活動をするようになりました。実際、ネットなどで発信しても販売だけでは広がりにくいのですが、船に乗って仕事を見てもらって喜んでくれたお客様は、リピーターになって何回も買ってくれるようになりました。

―今「海しょくにん」のメンバーを見ると、漁師さん以外にもたくさんいらっしゃるように見えるのですが、どのような構成になっているのでしょうか

 そうなんです。結成当初は漁業体験を提供する仲間としてスタートしたのですが、実は漁業体験自体は全国的にあるものなんですよね。だから、さらにお客様に楽しんでもらいたいと考えた時に、ただ「海の体験ができます」というだけではダメで、南三陸町らしくするには何が必要だろうということを考えました。

 考えた先に思い浮かんだ南三陸町の特徴としては、海だけではなく山林が町内の7~8割を占めるほどあるということ、海から山まで車で5~10分程度で行ける距離にあるというこの地形が、他の漁業体験の場とは違うことではないかと思ったんです。そしてその山の環境と海の環境は繋がっていますよね。そこで、海のことを知ってもらうためにも、海だけではなく里山の体験も一緒にできるようなプランにしようということになり、農家の友人も入れ始めました。

 後に、林業の友人、飲食業を営む友人、水産加工業の友人、ネットに強い友人なども入ってもらい、歌津・志津川・戸倉・入谷すべての地域のメンバーがいます。いろんな「職」が交わることで、南三陸町からさまざまなことを発信できる団体となりました。

―「海しょくにん」のメンバーは個性的な方々ばかりだと思いますが、メンバーたちの共通点って何だと思いますか

 現在は20代から40代まで約30人近くのメンバーがいて、それぞれ海の職人・山の職人・里の職人というだけでなく、趣味も多様でこだわっているメンバーが多いです。虫取り体験や化石発掘体験も趣味から発展して行っているんですよ。でも、誰もが“南三陸町を一番に考える”点で共通していて、海も含め南三陸町のさまざまな魅力を発信したいという仲間たちです。

―「海しょくにん」が提供する体験は、どのような想いで作られていますか。また、体験を通して、学生たちに何を感じて欲しいですか

 “どんな食べ物にも作る人がいる”ということを伝えたいと思っています。そして、どんな風に作っているのかということも知ってほしいです。海産物で言えば地形も大事で、地形によって出来上がるものも違うし、作る人によっても違うんです。それは海だけに限らず、野菜や果物、お肉なんかもそうですよね。そういうことを知ったうえで、日頃身の回りで売られている商品に対しても、その食べ物の生産現場を想像しながら買って食べてほしいという気持ちで提供しています。同時に「海しょくにん」のメンバーとの交流も楽しんでほしいと思います。個性的な人たち、多趣味な人たちがたくさんいるので、そういった“人”の魅力も伝えたいですね。

 プログラムを作る時は、あまり作り込み過ぎず、お客様の反応を大事にしながらプログラムにしています。最初は、こちらの想いをぶつけて見せていくような企画をしていましたし、船に乗って仕事を見せて体験してもらおうと漁港から漁場まですぐ船を走らせていたんです。でも、ある時ちょっと回り道して海から陸がよく見えるコースを走ったら、お客様が凄く喜んでくれたんですよ。ちょっとスピード出したりしても喜んでくれるし、牡蠣やホタテを見てほしいのにフジツボとかメインじゃないものに「何これ」と興奮している様子を見て「えー!こんなのに喜ぶの!?」と新鮮でした。自分たちにとって当たり前なものがいかに来てくれる人にとって面白いものなのかということを逆に教わったので、そういった反応を参考に、もっと喜んでもらえそうな体験になるよう日々改良しています。

―これまで漁業体験を提供してきた中で、特に印象に残っている出来事があれば教えてください

 震災前は誰も船に乗せなかったけれど、こうして体験してもらって「美味しい!」って喜んでくれるのが何よりも新鮮で、お客様の反応一つ一つが印象に残っています。そんな中でもエピソードとして印象深いことがありました。ある時体験に来たお客様の人数が多かったので、地元の漁師の先輩おんちゃんにも協力を依頼して船を出してもらったことがあったんです。何班かに分かれて漁場まで行ってまた漁港に戻ってきたのですが、そのおんちゃんの船だけ戻ってきたと思いきやまた沖の方に行ったりして、好きにやっていたんですよ。ところが、やっと戻ってきて船から皆さんが降りてくると、きゃーきゃー言ってとっても嬉しそうなんですよね。しかも、別れ際に自分たちじゃなくそのおんちゃんと記念写真を撮って帰ったんです(笑)。

 自分たちはまだ「どうしたら楽しいかな」「何をしたら喜んでくれるかな」と考えながらやっていたところがありました。でも、そのおんちゃんの「楽しませてあげよう」という気持ち、そして人柄や自由さの方がお客様の心をぐっと掴んでいたんですよね。相手を思って考えることも大事だけれど、“人”の魅力があってこそ伝わる海の楽しさや魅力なのかなと思い知らされた出来事でした。

 こういう経験もあって、今「海しょくにん」が提供する体験は、2~3人のスタッフで対応する場合でも基本的に打合せをしないんです。主に私が窓口をしているので、もちろんその時にお客様と打合せしたプログラムそのものは安全に行えるよう計画を立てていますし、共有しなければならないことは伝えています。ただ、必要最低限のことしか伝えず、その日出会ったお客様とできるだけ自然体に交流できるように意識しているんです。そもそも海って自然相手だから、作りこんだところでそのとおりになんていかないし、どこから来て何歳の人なのか、そしてどういう人なのかによっても興味の湧くポイントが違うから、会話をしながらその場その場で楽しんでもらえるように心がけています。

―最後に、直哉さんにとって“南三陸町の魅力”は何だと思いますか

 森・里・海が近いというちょっと変わった地形であるということと、まだまだ“未開拓な資源”が豊富にあることだと思います。だからこそ、その資源をどんどん地元民が知って発信していけたら良いと思っています。そのためにも「海しょくにん」が集まって、それらの資源を共有して、発信していける団体でいられるように頑張っていきたいです。そして、この町に来てくれる皆さんと一緒に、開拓していきたいと思います!

 

海から学ぶプログラム
南三陸の基幹産業である養殖について学ぶ、漁師が普段使用する漁船に乗船し養殖いかだを見学する「海から学ぶプログラム」の詳細は『こちら』です。

ライター

  大場 黎亜氏(おおば れいあ) 
東京都出身。大学生の時東日本大震災をきっかけにボランティアで南三陸町に通うようになり、のちに南三陸町復興応援大使になる。2017年結婚を機に南三陸町民となり、町を盛り上げていくための活動にも積極的に関わる。早稲田大学教育学部卒及び教育学大学院を修了しており、専門は敎育・文学・まちづくり・防災。現在株式会社Plot–d代表取締役。

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