「上智大学」オンラインプログラムレポート「食とまとめ」

実施概要

【団体】上智大学・募集型オンラインイベント(YouTube Live配信)
【日時】2021年2月20日 11:00~12:30
【人数】8名 及びLive配信視聴者

東京都千代田区に位置している上智大学(本部)は、1928年に設置された私立大学。
2017年から3年連続でご来町頂きました。主にボランティアビューロー(学生センター)が主体となり、復興状況視察などを目的にしています。
これまで町内で民泊体験、おでって(ボランティア)活動や南三陸人に学ぶプログラムを受講していただきました。

イベントの企画・目的

 上智大学の学生の皆さんはこのコロナ禍で実際に訪れることが難しい中、オンラインでの体験プログラムを自ら企画してシリーズ開催してきました。そのクオリティは回を増すごとにレベルアップしていくような素晴らしい段取りと構成で、リモート参加した南三陸町側のメンバーも驚くほどでした!

 オンライン企画では全体で4回構成のシリーズとなっており、第1回目はオンラインでの語り部による震災学習、第2回目は昨今話題になっている「SDGs」の観点も踏まえた持続可能な産業のお話、第3回目は南三陸町での働き方と暮らしのお話、そして最終回となった第4回目は南三陸の「食」をテーマにしています。

 単に「食」について学ぶだけではなく、食材の詳細を知り、レシピや調理方法を教わり、実際に一緒に作って食べるという行程までを参加者と共有することで、①南三陸の「食」への理解、②「食」に取組む人々に対する理解、③南三陸町という町そのものへの理解を深めることを目的としています。今回はライブクッキングも企画していたため、一緒に調理するメンバーがzoom参加し、その他の参加者はYouTube配信から参加というスタイルで開催されました。

体験の様子

■プログラムの流れ

  • オープニング(主催者からの挨拶・趣旨説明)
  • 佐藤将人氏へのインタビュー
  • クッキングタイム~銀鮭の味噌マヨバターちゃんちゃん焼き~
  • わたす日本橋からのビデオレポート
  • 第1回~第3回のゲストからのビデオレター

■佐藤将人氏へのインタビュー

 第4回のゲストは、南三陸町出身で宮城調理製菓専門学校を卒業し、京都の料亭にて修行後仙台の創作料理店で料理長として5年、寿司・和食店で3年半と料理人として活躍してきた佐藤将人さんです。2020年に地元南三陸町にUターンし、家業である銀鮭養殖・ワカメ養殖を継ぎつつ、料理人としても活躍を続けています。

 まず、南三陸町での銀鮭養殖の様子を紹介するVTRを参加者全員で見ることでイメージを膨らませたうえで、佐藤さんへのインタビューがスタート。YouTubeでの参加者からはチャットでも質問がありました。佐藤さんからも、地元南三陸町への想いと料理人としての想いをたくさん聞かせていただきました。

Q.料理人を目指そうとしたきっかけは何ですか?

A.実家では銀鮭とわかめの養殖、周りには牡蠣やホタテ、ホヤの養殖をしている生産者がいます。里山ではお米や野菜、果物も作られています。南三陸町は、海も里山も恵まれていて、新鮮な食材がすぐに手に入ります。料理人を目指したきっかけの一つとして、これらの食材を活かしたいという思いがあって料理の道に進みました。あとは、南三陸町はすごく田舎なので、都会で食べられているような料理も身近にはなかったんですよね。だったら自分でやってみようと思って、見様見真似で勉強して料理をしていました。それが楽しくなって、もっとちゃんと知りたいと思って、調理が学べる学校に行き料理人になりました。

 

Q.仙台でも活躍されていた佐藤さんが、Uターンしたきっかけは何ですか?

A.仙台駅前で料理人をしていたので観光客のお客さんも多くて、いろいろと扱う食材についても知ってもらいたいと思い、生産の難しさや提供できるまでのストーリーを調べて伝えていました。でも、聞いた話や本で読んだ話などを伝えてきたものの、自分で体験した話がないことに違和感を覚えたんです。幸い実家が生産者だったので「だったら帰って自分が体験しながら料理を作って提供すれば良い!」と思い、Uターンの道を選びました。

 

Q.それは大きな決断だったのではないかと思うのですが、Uターンした結果、生産者と料理人を両立することで新たな発見などはありましたか?また、どちらか一方だけでも忙しいと思うのですが、両方を両立する道を選んだのはなぜですか?

A.自分の中には「料理人」という芯があったので、魚を見ながらもサイズや種類でどんな料理に合うか考えながら向き合っていました。「生産」だけでなく出口となる「提供」のところまでをやれるようになりたいという思いがあったからです。あとは、生産できる食材の多い南三陸町にいると、魚もですが野菜なども含めて、鮮度の良い状態で料理をスタートできるというのが料理人としても強みになるなと感じています。

 

Q.Uターンしてから挑戦した銀鮭養殖について、面白いと感じるところは何ですか?

A.銀鮭養殖の作業は明朝から取り組みます。銀鮭は暑さに弱いし、日が昇ってあたたかくなると鮮度が落ちてしまうため、鮮度の良い状態をキープできる時間帯にスピーディに取組むことが必要です。作業自体は体力勝負で大変なんですけど、朝日が昇ってくる景色や海の上からの景色を見ることができるのが良いですね。

 

Q.海での養殖による食材を使ったレシピは、どのようにして考えているのですか?

A.日本料理を学んできましたが、それに捉われずにイタリアンやフレンチの技法、お菓子作りの技法なども取り入れて、さまざまな視点からその食材を活かすレシピを考えています。それと、日本料理には「出会いもの」ということばがあり、例えば今が旬のワカメや春の筍で「若竹煮」という料理がありますが、それは自然界では交わることのない食材なんですよね。でも、料理することで一つのお皿の上で出会うことができます。南三陸食材も、お皿の上で出会える料理を意識しています。

 

Q.銀鮭の養殖は、年によって漁獲量の差が出ますか?

A.銀鮭のいけすは1つに数万匹いますが、例えば病気になった銀鮭から病気が広がってダメになってしまったり、暑さに弱いので海水温が上昇することでダメになってしまうことがあります。また、台風などで海が荒れた時にいけすが損傷を受けることで銀鮭にも影響が出ることもあります。ただ、未然にそれを防ぐために努力をして対応していますよ。

 

Q.銀鮭養殖は東日本大震災でどのような影響を受けましたか?

A.自分の実家がある南三陸町の戸倉地区でも震災前は6軒が銀鮭養殖をしていましたが、震災で3軒の船が流出してしまい、半分になってしまいました。いけすも津波で流されてしまったし、当時も出荷前でたくさんの銀鮭を育てていた時だったので、その1年は何も仕事になりませんでした。震災後は残った3艘を使って、これまでの個々のスタイルではなくみんなで協力し合う共同作業スタイルでやっています。

 

Q.銀鮭漁師の大変なところと喜びは何ですか?

A.1つのいけすの中で銀鮭たちを寄せていく作業があるのですが、これが相当な力が必要なので大変です。自分も1年目は肘を壊してしまったりしました。それに、朝も早いので慣れるまでは大変でした。でも、漁師って豪快なイメージがあるかと思いますが、実際に一緒に作業している先輩漁師たちもまさに豪快で、その姿を格好良いと思うので、自分たちでできていることへの誇りを感じます。

■クッキングタイム

  佐藤さんへのインタビューを踏まえて、早速佐藤さんおすすめの銀鮭料理をご紹介!ライブクッキングに参加する皆さんには事前に食材の準備をしていただいていたので、佐藤さんの手順に続きながら一緒に調理をしていきました。

〇必要な食材

▷「味噌だれ」づくり 

・みりん 大さじ3
・酒 大さじ3
・味噌 大さじ2
・にんにく(おろしにんにくでもチューブにんにくでも可) 小さじ1
※1人前ではなく作りやすい分量。残った味噌だれは野菜ディップや味噌おにぎりなどに使えます!

▷「銀鮭の味噌マヨバターちゃんちゃん焼き」づくり 

・銀鮭フレーク 瓶の半分
・厚揚げ豆腐 1丁
・野菜(キャベツ、にんじん、もやしなど) 市販のカット野菜1袋分程
・小口ねぎ 適量
・海苔塩ポテトチップス 数枚
・マヨネーズ お好み
・バター 10g
・味噌だれ 大さじ1+追い味噌適量

〇手順
▷「味噌だれ」
①鍋にみりんと酒を入れて煮切り、アルコールを飛ばします。
※この場合IHなら良いが、ガスコンロの場合浅い鍋だと引火するため深い鍋を使う。

②様子を見つつ、30秒くらいしたら火を止めて、味噌とにんにくを入れて混ぜます。

▷「銀鮭の味噌マヨバターちゃんちゃん焼き」

①厚揚げ豆腐を一口サイズにカットします。
※厚揚げは銀鮭や野菜の出汁を吸い旨みが増します。さらにボリューム感もアップするのでおすすめ。

②野菜も食べやすいサイズにカットして、均一に火が通りやすいようにラップをかけて30秒ほど電子レンジであたためます。一人分だったら市販のカット野菜を一袋使うのもOKですよ。

③ボウルに厚揚げ豆腐、野菜、銀鮭、味噌だれ大さじ1を入れてさっくり混ぜ合わせます。ちなみに、ほぐした切り身を使うのがベストですが、今回はオンライン開催なこともあって銀鮭のフレーク状にほぐした瓶詰を使用します。銀鮭が手に入らなくても市販の焼き鮭用の切り身でも作れますが、塩味が強い場合もあるので味噌の量などで調整しましょう。

④混ぜた中身を耐熱皿に移して、さらに追い味噌だれ適量とマヨネーズ適量、ちぎったバターをバランス良く乗せて焼き色が付くまで火入れします。火入れの際は、魚焼きグリル、オーブントースター、レンジのオーブンのどれを使ってもOKなので、焼き色が付く加減を確認しながら火を入れてみてください。

⑤最後に小口ねぎをトッピングして完成・・・でも良いのですが、アクセントに海苔塩味のポテトチップスを割ってトッピングするのもおすすめ!野菜と銀鮭と味噌だれのエキスが詰まった汁を吸ったポテチも美味しいですよ。

実際に調理してみた参加者の皆さんも、画面越しにとても美味しそうに出来ている様子を見せてくれました!YouTubeでの参加者さんからも「一人暮らしの料理初心者だけどとっても簡単で美味しそうだからやってみたい!」などのコメントが寄せられました。佐藤さんからも「銀鮭を食べてほしいという思いはあるけれど、このレシピはえびやいか、豚肉などでも応用できるからおすすめですよ。新じゃがの季節になったらそれも合いますね」とのことでした。

また、料理初心者におすすめの銀鮭の食べ方としては「切り身で売られていることが多いと思うので、シンプルに焼いてお茶漬けにするのもシンプルながら贅沢で美味しいし、ほぐしてごはんと混ぜておにぎりにしても美味しいですね。おにぎりの具と言えば、昔から鮭でしたから!」とのアドバイスがありました。

佐藤さんからのメッセージ

最後に、佐藤さんへ「今後南三陸町で挑戦していきたいこと」「南三陸町の魅力」について質問がありました。佐藤さんからの素敵なメッセージをご紹介します。

― 南三陸町は食材も魅力だし、海も里山も豊かで、熱い想いを持って生産している人たちがたくさんいるのも魅力です。そういった素晴らしい生産者さんたちがいるものの、発信が難しいというところもあると思います。だからこそ、地方の料理人はもっと発信していかなければならないと思うんです。今は新型コロナウイルスでなかなかできないですが、落ち着いたら県外に対しても、生産したものを料理して食べてもらうことで魅力を知ってもらえるような活動を増やしたいです。今回このような形で皆さんとできたのは楽しかったですし、まだまだ伝えたい風土、食材があります。「わざわざ」来ていただいても、それに見合う美味しさや感動を伝えられる町だと思っています。新型コロナウイルスの感染が落ち着いたらぜひ南三陸町に来てほしいです。

第4回目となる南三陸町のオンライン企画

 今回のプログラムを終えて、主催側の方からは「オンラインではあるけれど、何か五感で感じられることがしたかったし、南三陸の食を味わいたいと思っていました。たた食べるということではなく、作るところから学ぶことで、その背景や食そのものについてはもちろんのこと、人の魅力も伝えたいとも思っていました。ライブクッキングをやるのはハードルが高いのではないかと心配でしたが、観光協会の担当者の方にも今回のゲストの佐藤さんにもたくさんサポートをいただいて、無事できて良かったです。銀鮭そのもののすばらしさも伝わったと思います」との感想をいただきました。

第1~4回目を通して

また、今回はプログラムの終わりに、第1回~3回のゲストからのビデオメッセージも送られたのですが、第4回がシリーズ全体の最終回ということで、各回を主催した学生の皆さんや複数回参加した参加者の方にもインタビューしました。全体をとおしての感想もご紹介します。

▷現地の方からお話を聞くことで、ネット上だけでは分からないことがたくさん分かったので企画して良かったです。現地に行けないから始めたオンラインですが、オンラインだからこそ参加しやすかった学生もいたと思うので南三陸町のことを広めることができたと思うし、企画同士の相乗効果も感じられました。これをきっかけに、実際現地へも足を運べたらと思います。

▷全体を通して人の魅力を感じられる企画になったと思います。学びも大きかったし、ゲスト講師の方々も期待以上・想像以上のことを教えてくださってとても楽しかったです。観光協会さんの手厚いサポートもありがとうございました。

▷防災のことを学ぶ回で、日頃から地域のつながりが強いからこそみんなで助け合っていたということが印象的でしたが、こうして全部の回を通してもそれが感じられました。

▷この企画をとおして、現地の声が聞けたことで産業や復興、働き方などさまざまに知る良いきっかけになったので感謝しています。

▷震災から間もない頃に現地で出会って話を聞いた人のことはずっと記憶に残っています。今回もオンライン上ではありますが、こうして現地の方にお会いしてお話できたのが印象深いです。これまで、一方的にしかアクションが起こせないような気がしていましたが、この企画をとおしてさまざまな人たちとさまざまなアプローチでできることがあると分かったのが良かったです。

上記を踏まえ、今後機会があればやってみたい企画について

最後に、今後機会があればやってみたいことについても教えていただきました。皆さんの中から出た意見としては、4回を通じていろいろ吸収できた回ではあったので、今後は学生からも何かアウトプットできるような企画ができたら良いという意見がありました。また、今回同様にデジタルを活用することで、もっと魅力を発信するイベントができると感じ、SNSをもっと使って、若い世代へも発信していきたいという意見がありました。

主催者側と参加者側から出た意見としては、どうしても時間内にプログラムを進めるにはゲストの方とのお話タイムが短くなってしまうので、参加者個人個人とゲストがもっとたくさん会話できるような企画もしたいということでした。参加者としても、もっと南三陸町の人たちに聞いてみたいことがたくさんあるので、いっぱいお話を聞ける回があったら嬉しいとのことでしたので、さらに深掘りした交流ができる企画も生まれたら素敵ですね。

主催・参加された上智大学の皆さん、お疲れ様でした!各回の素晴らしい企画は、皆さんにも実りになっていたようですが、南三陸町側で皆さんにお会いできたメンバーにとっても嬉しい機会だったと思います。今回、東京にある「わたす日本橋」からのビデオレポートもご紹介しましたが、今は現地に行きづらくても、身近に南三陸町の「食」や「人」を感じられるお店があるのでぜひ足を運んでみていただきたいです。オンラインも上手に活用しつつ、ぜひ、実際に対面でもお会いできる日を楽しみにしています!ありがとうございました!

ライター

  大場 黎亜氏(おおば れいあ) 
東京都出身。大学生の時東日本大震災をきっかけにボランティアで南三陸町に通うようになり、のちに南三陸町復興応援大使になる。2017年結婚を機に南三陸町民となり、町を盛り上げていくための活動にも積極的に関わる。早稲田大学教育学部卒及び教育学大学院を修了しており、専門は敎育・文学・まちづくり・防災。現在株式会社Plot–d代表取締役。

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