慶應義塾中等部様【漁業体験】実施レポート

■実施概要

【日時】2023年7月11日 13:00~14:30

【団体】慶應義塾中等部様 

【人数】29名

 

 南三陸といえばやっぱり海。親潮と黒潮が交わり、世界でも屈指の豊かな海域を誇る三陸沖は世界三大漁場の一つ。そんな豊かな海域と山からの豊かな栄養分が交わる志津川湾は養殖業に最適な環境です。ワカメ・メカブ・ギンザケ・ホヤ・ホタテ・カキなど一年間を通して豊かな海産物が育まれています。

 南三陸町では、そんな豊かな海を活かしたブルーツーリズム体験も豊富にあります。そのひとつの漁業体験では、日常生活では接することが少ない漁師さんと交流できるとともに、普段食べている海産物がどのように育まれているか知ることができます。食育にもつながることから、教育旅行のコンテンツとしても人気プログラムの一つとなっています。

 この日体験を受け入れたのは、南三陸町の北に位置する歌津地区の泊浜で、ホタテやカキ、ホヤなどの養殖業を営む金比羅丸の高橋直哉さん、高芳丸の高橋芳喜さん、そして南三陸町に移住して漁業に従事する井尻一典さんからなる「南三陸海しょくにん」のメンバー。

 この地区も東日本大震災で大きな被害を受けた場所。養殖施設は流出し、海がガレキだらけの場所となりました。当然漁業を営んでいた直哉さん、芳喜さんも大きな被害を受けましたが、多くのボランティアの支援を受けて再建。ボランティアに来てくれたみなさんに、お礼に海産物を食べてもらって喜んでもらったことが漁業体験を始めたきっかけになったそう。
 「自分たちにとっては当たり前のことでも、驚いて、楽しんでくれて、喜んでくれることが新鮮でした」と話す直哉さん。そうした原体験からか、漁業体験は参加した人が少しでも楽しめるように様々な工夫がされています。

 今回のプログラムは、海上での乗船体験と、陸上での生き物観察やワカメ試食会に大きく分かれています。参加者をこの2チームに分け、さらに乗船体験は船2艘に分かれて乗船しました。陸上のプログラムは、まさに旬を迎えている「ウニ」と触れ合い、ウニの生態について学んでいく時間。そして漁師にとって欠かせない「ロープワーク」を体験しました。
 乗船の前には、なかなかイメージのしにくい海中の様子も、イラストなどを使って分かりやすく解説。伝え方一つとっても参加者がしっかりとイメージできるような工夫が見られます。
 「2トンほどの重さがあるコンクリートブロックを海中に沈めてあります。そこに水面の浮き球から吊り下げたロープを固定します。次に2つの浮き球を養殖ロープで水平につなぎ、そのロープにホタテやカキなどを吊り下げて養殖をしています。遊覧しながら海中の様子を想像しながら海を見てほしいと思います」と直哉さん。



 ライフジャケットをしっかりと着ていざ出港!

 奥まった湾内から徐々に湾の外に向かって船を走らせていきます。漁船ならではの疾走感や爽快感はとびきり。近くを飛び交うカモメの様子や、船上から見る南三陸町の景色もまた圧巻です。波を乗り越えると「ぅおおおおっ!」とみんなで大盛りあがり。生徒たちのイキイキした表情が印象的です。

 ところどころで船を停めて、そこで育まれている海産物についての話や、海域の特徴などを話していきます。

 「ここは水深10メートルくらいの穏やかな海域です。この穏やかなところではカキの養殖を行っています」。
 少し船を走らせた先では、「沖合に近づいてくるため海水温も低くなります。そのためホタテやホヤなどの高水温に弱い海産物を育てている場所になります」、「ここからさらに湾の外に出て外洋に出たところでは、ワカメの養殖をしています。外洋は波が荒く水温も低いので、そこで育てると荒波に負けないように肉厚で歯ごたえがたっぷりある三陸の最高級ワカメが育つんです」と、普段聞くことのできない養殖業についてのお話に興味津々の生徒たち。心地よい疾走感と海についての学びを深め、約20分ほどの漁船クルーズ体験を終え帰港します。



 陸上のプログラムでは水槽にウニが用意されていました。ウニを食べたことはあっても、生きている状態で見るのはほとんどの人が初めて。トゲトゲした見た目に驚きながらも、手のひらに乗せて触ってみています。

 「ウニってこんなにトゲトゲなのに、どうやって移動したり壁に付いていると思う?」
 「ウニの口を探してみて」
 「ウニは何年生きると思う?」
 と実際に動くウニを見ながらその生態について質問をしていきます。はじめは恐る恐るだった生徒たちもどんどん興味津々に。短時間のうちに、今まで疎遠だった海の生き物が身近に感じられている様子がわかります。

 さらに漁師に欠かせないロープワークを体験します。船を陸につなぎ止めておくときに使われる「もやい結び」にチャレンジ。素早く結べて強度も高いために、船だけではなく、アウトドアやペットをつないでおくリードなど、日常生活でも汎用性の高い結び方です。

 「なんで?ほどけちゃうんだけど!」
 「できたできた!コツ掴むと簡単だね」
 ロープワークは得意な子から苦手な子へ教えてあげながら交流する光景もひろがります。

 国内で流通しているワカメの8割が輸入である現状を伝えた上で、南三陸産ワカメと、外国産ワカメの食べ比べを行い、歯ごたえや味わいからどちらが南三陸産であるかを当てるゲームを行いました。

 それぞれひと口ずつワカメを口にする生徒たち。 
 「あれっ?こっちのほうが歯ごたえがいい気がする!」
 「このワカメ固い!」
 「どっちもおいしい!いや難しいな〜」
 「いつも食べてるのはこっちのような・・・」
 ゲームの結果はなんと多くの生徒が正解。歯ごたえのよさは食べ比べてみると明らかなようです。
 「南三陸産のワカメは歯ごたえがあって、香りがしっかりとしています。特に外洋で育てたワカメがそうです。お父さんお母さんとスーパー行ったときは、ワカメの表示を見てみてください。案外、南三陸産のワカメだったりするかもしれません。『勉強してきたワカメだからこっちにしようよ』ってお話してもらえたらうれしいです」と芳喜さんは話します。



 学校の担当教員は「昨年から漁業体験に参加させてもらっています。学校が都会にあるので自然に直に触れられるというところが大きいですね。漁師さんと直接触れ合えることも貴重な体験で魅力的ですね」と、この体験の狙いについて話します。そして「生徒たちのここまでイキイキした表情はなかなか学校生活では見られないもの」と目を細めます。


 普段関わることの少ない漁師の世界。だからこそ体験時間は驚きの連続です。この体験プログラムを通して普段なにげなく手に取るスーパーの海産物を見る目も変わっていくことでしょう。南三陸が誇る海の魅力を存分に楽しむことができる漁業体験プログラムをぜひ教育旅行に取り入れてみませんか?

 

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