静岡市立清水桜が丘高等学校 曲田雄三先生 体験参加者インタビューレポート

 南三陸町では、教育旅行向けのツアー内容についても、生業体験やものづくり体験、民泊体験などさまざまな体験プログラムを提供しています。これまでもたくさんの学校に教育旅行の目的地として選ばれてきました。今回は、数々の学校の中でも2019年から交流のある、静岡市立清水桜が丘高等学校の教員・曲田雄三先生にお話を伺ってみました。南三陸町での教育旅行をスタートさせた経緯や実際に体験してみて感じた魅力、今後の展望などについてお話いただきましたのでご紹介します。

―曲田先生、2019年から南三陸町を教育旅行の行き先として選んでいただいていますが、遠い静岡県からなぜ、この町を選んでくれたのでしょうか

静岡県の商業高校関係の取り組みに「ソーシャルアントレプレナーシップ」(※)というのがありまして、そこでの予算を活用し、東日本大震災で被災した地域と交流しようという取り組みがあったので、私たちも生徒たちを連れて行きたいと思いました。それならどこへ行こうかと考え始めたのですが、多感な高校生の時期に「今じゃなきゃできない経験」「これまでにない経験」をさせたいという思いがあって、地域の人たちの元で過ごす民泊ができる場所に連れて行きたいと思ったんです。そこで「東北 民泊」とネットで検索してみたら、南三陸町が出てきたんですよ。

正直、こうして検索し始めるまでは、南三陸町のことをそこまで知らなかったのですが、民泊の行き先として調べ始めていくうちに、震災の被害のことや南三陸町というまちそのものについても知ることになりました。

(※ 社会問題を解決する際に、ビジネススキルやマネジメントスキルを活かした問題の解決を図り、同時に収益を確保して経済循環を生む事業を創造する取り組みのこと。)

―南三陸町のことを調べながら知っていく中で、生徒たちに南三陸町で何を学ばせたいと思いましたか

私たちの学校は静岡県の清水という港町にあって、懸念されている南海トラフ地震が来た場合に大きな被害を受けるだろうと想定される地域です。だからこそ、東日本大震災の教訓を学ばせたいというのが一つあります。でも、ただ震災学習についてだけでなく、現地に足を運ぶことで、多感な高校生にさまざまに感じ取ってほしいという思いがありました。外に出て、現地で出会う人たちのそれぞれの人生や生き方に触れることで、南三陸町に行くことでしか味わえない経験をしてほしいと思っていました。

―そのような思いを抱いて、実際に南三陸町に生徒さんたちとお越しになってみてどう感じられましたか

まずは「南三陸町って本当に良い町!」というのが言いたいです。本当に、町があったかいというか、人があったかいというか。民泊では、最初は緊張していても夜になると打ち解けて、言い難いであろう震災の日のことなども話してくださったりして、生徒たちもたくさんのことを感じているんですよね。連れて行った生徒の中に、県大会を逃して悩んでいた野球部の子がいたんですけど、民泊でお世話になった方から今を生きていられることの幸せについての話を聞いて「悩めることも幸せなんだ」と感じていたのが印象的でした。帰る日には涙ながらにお別れしてくださる民泊の方々に、南三陸町の「人」をたくさん感じました。

一度足を運んで現地に行けば、情景が浮かぶようになって、顔が浮かぶようになりました。先日も大きな地震(2/13)がありましたが「東北」ではなく「南三陸町」が心配になって、思い浮かんだ人たちが心配になって。今の時代SNSで簡単に繋がれるところもありますが、それだけでは得られない繋がりを得ることができました。実際に経験したからこそ思うのは、南三陸町での学びは震災学習・防災教育としてのみではなく「人と人の繋がり」から学ぶことができるまちということです。

―その他、南三陸町に来てみてどのような部分に関心を持ちましたか。あるいは、どのような部分が印象的でしたか

現地に立って感じられること、現地の生の声が聴けるということが印象的でした。南三陸町で課題になっている防災対策庁舎のことも、私たちはネットやニュースからしか知ることはできないでいたので、実際はどうなんだろうと思っていました。実際に現地の声を聞いてみれば、やはりさまざまにあるんですよね。言葉を交わしてみないと分からないことがたくさんあるなと。現地の人たちの伝えたい思いや、伝える言葉の裏にあるものをたくさん感じて考える経験でした。民泊の夜に踏み込んだお話をたくさんさせていただいて、翌日違う価値観で帰って来られるのも印象的でした。

―昨年は新型コロナウイルスもあって町内に来ることができなかった中で、オンライン語り部を受講されましたが、オンラインでの交流はいかがでしたか

やっぱり私たちのいるところから南三陸町は距離があるので、オンラインによってハードルが低くなったというのはあります。オンライン開催すると決まってからは、県内の学校の先生たちに呼びかけたら10人近い先生が集まることができて、オンライン企画ならこの地域にいながら、さらに繋ぎたい人に呼び掛けて広げることができるのが良かったです。それに、語り部さんもお話が上手だから分かりやすく伝わってきたのが良かったです。

 今後またオンラインで企画することになったら、もっと皆さんとの会話の掛け合いができるようなやり方やグループワーク的な要素を入れてみたいと思いました。あるいは、他校の高校生たちと一緒に受講することで、共に語り合ったりいろいろな人と繋がるきっかけになると嬉しいです。それぞれ暮らす場所によって価値観も違うと思うので交流の幅を増やしたいですね。

―今後は、南三陸町でどのようなプログラムを行いたいですか

この1年は新型コロナウイルスもあって現地に行くことを閉ざされてしまいましたが、観光協会さんからも柔軟に人と人との縁を繋いでいただいたので、今後も南三陸町との縁が切れないようにしたいなと思います。

これからやってみたいなと思うことは、 高校生同士の交流ですね。志津川高校の生徒さんたちともっと交流できたらこちらの生徒にとってもすごく刺激的な経験になると思うんです。一緒にまち歩きをしたり、まちのことを語り合ったりしてみたいです。あとは、民泊ではおうちのお手伝いはさせていただくのですが、今後は地域の仕事の中に飛び込んだ就労体験をさせたいですね。高校生はキャリア教育があるので、社会の中で人と人の繋がりを活かせるようになってもらいたくて、もっと職業に深く入り込んだ体験をさせたいです。

 

―南三陸町との交流をするようになって、変化を感じることはありますか

  南三陸町との交流をきっかけに、自分たちの地元で実施するイベントで、南三陸町とのコラボグッズを作ったり取り寄せた商品の販売をしたりしています。生徒たちと販売することで、買いに来てくれる人たちの中にリピーターになってくれる方が増えて「これ美味しいのよね」と喜んでくれるのが嬉しかったです。継続してやっていくことで繋がりが増えるんだなあと実感しました。

 あとは、教え子たちの中にまちづくりに興味を持ってくれる生徒が増えました。自分たちの地元でできることを模索してやってみようとする生徒やまちづくりに関連する学校へ進学する生徒も出てきました。南三陸町で感じる「このまちをもう一度作っていく」「このまちでもう一度立ち上がろう」という風土から来るものなんだろうなと思います。こういった風土に魅力を感じて、生徒たちも自分の将来へ繋げていくんだと思います。だから、彼らがもっと自分たちなりの視点を持って進んでいけるように、これからも繋がっていきたいと思います。

 

 お話をしてくださる曲田先生の明るさと漲るエネルギーが印象的で、素敵な先生だなあと感じました。曲田先生をはじめ、南三陸町に行きたいと言ってくれている生徒さんもたくさんいるというお話を聞き、先生がこれからやってみたいという教育旅行プランを一緒に作っていけるよう、南三陸町にいる私たちも頑張っていかなければと意気込みました。早くまた、南三陸町でお会いできることを楽しみにしています。ありがとうございました!

ライター

  大場 黎亜氏(おおば れいあ) 
東京都出身。大学生の時東日本大震災をきっかけにボランティアで南三陸町に通うようになり、のちに南三陸町復興応援大使になる。2017年結婚を機に南三陸町民となり、町を盛り上げていくための活動にも積極的に関わる。早稲田大学教育学部卒及び教育学大学院を修了しており、専門は敎育・文学・まちづくり・防災。現在株式会社Plot–d代表取締役。

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